線の強弱からスクリーントーンまで 漫画を刺繍で表現する「漫画刺繍」がすてき:司書メイドの同人誌レビューノート
人の数だけ表現方法がありますね。
日暮れると少し風を冷たく感じるようになってきましたね。秋の行楽も一段落して、そろそろおうちの中での楽しみを考えるころでしょうか。今回ご紹介するのは、手芸の同人誌です。一般に流通する手芸には刺繍(ししゅう)一つとってもさまざまなバリエーションがあります。
一般的な刺繍のイメージといって浮かんできそうな、色とりどりの刺繍糸で図案を刺すフランス刺繍、「×」の字を繰り返し刺して画面を埋めていくクロスステッチ、糸の代わりに細いリボンを使うリボン刺繍などなど。私も手芸が好きで、刺繍は親しみあるジャンルです。けれど、このご本を手にしたとき「これは思い付かなかった……!」と目を見開きました。
今回紹介する同人誌
『漫画刺繍ができるまで』
A5 12ページ 表紙・本文カラー
『漫画刺繍の刺し方vol.1主線』
A5 12ページ 表紙・本文カラー
作者:あー。
漫画を刺繍で表現する「漫画刺繍」
こちらの同人誌は、漫画の絵を刺繍で表現してみようと、その作り方を解説したご本です。『漫画刺繍ができるまで』では、図案を布に下書き(写す)し、刺繍し、仕上げるところまで、漫画刺繍の最初から最後までを12ページにまとめてあります。
刺繍のもとにする図案集などに、お花や動物が載っているご本はよくありますが、あえて漫画? と思ってページを開くと、白い布地に浮かび上がる黒の線。繊細なキャラクターの表情……おお、確かに漫画です!
作者さんは刺繍は独学とのことですが、それだけに、「ここはロング&ショートステッチという面を埋めるステッチをしています」といった名前だけでなく、さりげなく「どんな効果を狙って、このひと針を進めるのか、ということを解説に盛り込んであり、分かりやすいです。さらにちゃんと刺繍技法の説明も全編カラーページで、イラストや写真で解説してあるのもうれしいです。そして、ご本が中とじなのも開いたまま作業ができて、大変ありがたいです。これは、実際に試行錯誤を繰り返した方の英知の結晶……! という気持ちが押し寄せてきます。
線の強弱、スクリーントーンの均等な点……それを刺繍でやってみた
さらに『漫画刺繍の刺し方vol.1主線』では、漫画らしさを表現するのに大切な、「ペンタッチ」を刺繍で刺す方法を説明されています。キャラクターの肩や唇の柔らかいカーブ。それを表現するために、「カーブは直線部分よりはひと目ひと目を短くして、線の流れを少し先まで読みながら刺す必要があります」と、細やかな気遣いをされていて、ご本ではそのコツが惜しみなく公開されています。
さらりと描かれたような線の終わりをどう表現するのが良いのか、どうやると漫画っぽくなるのか、これは作者さんがご自身で得てきたからこその気付き、実はいままでにない着目点のテクニック集でもありますよね。
こうして、少しずつ、けれど着実にキャラクターが布の中に浮かび上がっていくのですね……!
ひと針ひと針、漫画と向き合う時間を刺し進めて
なぜ漫画を、あえて刺繍で刺すのか……。その理由は、ご本には書いてありません。けれど、ご本を見ているうちに、それは漫画と向き合う時間を愛されているからではないかという思いが湧いてきました。素晴らしいお手本の文字を見ながら筆で書くならお習字になるでしょうし、美しいと思った作品を模写するという絵画の楽しみ方もあります。きっと作者さんは漫画がお好きで、その自分なりの昇華の方法として刺繍を選ばれたのでは、と思ってしまいました。
というのは、私自身漫画が大好きですが、絵を描くのは得意ではありません。でも、とってもとってもすてきな作品をなんとか……こう……自分の中に取り込みたくなるときがあるんです。その方法として、自らの手で少しずつ、「この線はどういう表現を意図して引かれたのか」にまで思いをはせながら、本当に丁寧にコツコツと進める刺繍というのは、長い時間をかけて愛する漫画と向き合っていられる、すてきな方法なんじゃないかしらと、はっと目を開きました。
でき上がった作品は、キャンバスに貼って飾ったりもできるとか。かっこいいですねー。絵を描かないのに、漫画と向き合う、漫画を作り出す楽しみを体感する、すてきな新しい手芸ジャンルになるかもしれません!
今週のシャッツキステ
著者紹介
関連記事
- 「君の名は。」から「東方Project」まで 合唱で歌えるアニメ・ゲームソングをまとめた同人誌が実にマニアック
そんなアニメ・ゲームソングを歌うサブカル合唱団もいるんです。 - 「10年後には朽ちるものを100年後に延ばす」 博物館の裏方描いた漫画が驚きの連続
『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』をご紹介。 - 決してひと事ではない? 同人誌『夜10時カギを忘れて家に入れず初めてカプセルホテルに泊まった話』
忘れたと確信したときのドキドキ感……。 - ガーターベルトに仕込みメガネ メガネフリークしか出てこない1ページまんが「めがねのね〜眼鏡の音〜」が狂気の沙汰
「委員長の眼鏡ふきを煎じて飲んで、心を落ち着かせよう」 - 税率で変わる2人の関係 お金“異形頭”マンガ「おかねちゃん!」は恋するコインの物語
手袋はめてるのもポイント高いです。 - こんなの待ってた! アメコミの効果音を集めた辞書がマニアックすぎて心くすぐる
今週はサークル「FANDOMAIN」さんの同人誌「アメリカンコミックス効果音辞典 スーパーヒーロー誕生から70年代まで」をご紹介。 - “鳥と鎧”の意外な組み合わせ 武具をまとった鳥たちのイラスト集があっぱれなクオリティー
すごく似合う。 - マンボウ最弱伝説はウソ? 「着水の衝撃で死ぬ」「朝日が強すぎて死ぬ」などの真偽を研究者が判定
今回はマンボウ研究家が調査結果などをまとめた「マンボウの都市伝説-噂の根源と真偽- ver.3」をご紹介。 - どう見ても“地面に突き刺さったイカ” きのこライターによる同人誌『イカタケ』が記憶に焼き付くインパクト
かわいらしい『きのこの雨宿り』もご紹介。 - 「人工培養肉」を作って食べてみた 理系大学院生が体を張った同人誌にドキドキが止まらない
味付けはクレイジーソルトがおすすめだそうです。 - 同人活動の強い味方! 初心者からベテランまで使える、「おしながき」作りのためのレイアウト本
「おしながき」という文化を守るための1冊にもなりそう。 - 入りきらなければ移動式書架を導入すればいいじゃない 本好きの夢が詰まった同人誌『せっかくだから俺はこの動く本棚を選ぶぜ』
スライドするぞ、気を付けろ! - 全国各地の“恐竜像”を1冊に 220カ所ものスポットを紹介した「日本全国恐竜公園ガイド」にワクワクする
そんなところにもいるの!? - フォントを手で書くための同人誌 「ズボラ手書き明朝体講座」が手書きの楽しさを教えてくれそう
手書きフォントならぬ、フォントの手書き。 - これがミニカー!? スマホでもできる、憧れの名車を好きな構図で撮るための撮影術
広がるミニカーの楽しみ方。 - 黒電話っぽいけどダイヤルがない……? レトロかわいい「磁石式電話機」にファンタジー脳が刺激される
こんな面白い電話機があったとは。 - 音が出るものから計算できないものまで!? 作者の“変な電卓”愛が爆発した同人誌に電卓の可能性を感じる
変な電卓が114種類を掲載した「変な電卓2017」を紹介します。 - “もしも埼玉にプロサッカークラブがなかったら” 架空の“埼玉”が舞台のちょっぴり変わったサッカーマンガ
同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』をご紹介。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
-
川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
-
中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
-
大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
-
「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
-
猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
-
なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>
-
大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
-
「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
-
「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
- 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
- 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
- ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
- 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた