■世界の宮本茂が「Nintendo DS」を語る
■2004年5月14日更新
“マリオの生みの親”であるご存知,宮本茂氏。全世界でもトップクラスのクリエイターである同氏が,「Nitendo DS」について語った。海外メディアも交えて行われた記者発表会では,「Nintendo DSに託された哲学」とでもいうべきテーマを,宮本氏特有の丁寧な語り口で語っていった――。
世界中のメディアの前に姿を現した宮本氏は,開口一番「僕が任天堂を辞めたなんていう噂が立っているみたいで」と,いきなり自分にまつわるゴシップネタを披露。
……と,軽〜く会場の雰囲気を和ませてから,本題であるNintendo DSの話題にスライドした。この芸風,“人を楽しませる”ことを生業にしてきた氏ならではのものだが,それでいて語られている内容が非常に重いあたり,同氏のゲーム作りに相通じるところがある。
この会見の冒頭で,まず宮本氏はNintendo DSを手にとって「僕らはこれはゲームボーイじゃないと思って作ってるんです」と,同じ任天堂の携帯ゲーム機であるGBAとの根本的な違いから説明を始めた。
宮本氏によると,Nintendo DSの基本的なチップの性能などはゲームボーイの進化系であるし,GBAとも互換性がある。
ゆえに一般の目からはNintendo DSがゲームボーイの後継機に映るであろうことを認めた上で,「だけど,僕らはこれを“第三の柱”と呼んでいて,ゲームキューブ(据え置き型),ゲームボーイ(携帯型)に続く第三のハードとして作ったものなんです」と,その位置付けを示した。
では,どのあたりが「第三の柱」なのか? 「このところ任天堂も,新しいものを作るといいながら,ハードは高性能化の路線をたどっていたんです。でも,そろそろ“高性能化”という進化を見直そうと思いました」と宮本氏。
その設計にあたっては,世界最大のソフト会社でもある任天堂のメリットが最大限に生かされた。ちょっと話がそれるが,20年前にファミコンが誕生したときも,やはり「ソフト主体」でハード設計が進められたという有名なエピソードがある。
当時の任天堂は「ドンキーコング」など,アーケードゲームの開発を手掛けていて,そのノウハウがファミコンに投じられたというのだ。今回のNintendo DSでは,ソフトとハード両方の開発経験が投じられ「任天堂ならでは」の特徴がふんだんに盛り込まれている。
ゲームボーイよりも性能が上がったグラフィックチップを搭載し,コネクティビティなどのチャレンジの成果をワイヤレス通信に生かした。ソフト開発時に生じたアイデアを参考にマイクも内蔵されている。Nintendo DSは,まさにファミコン以来20年にわたる任天堂技術の結晶と言っていい。
このようにしてNintendo DSが生まれた背景には,“一般人のゲーム離れ”に対する危機感がある。
宮本氏は,現在のゲームを取り巻く状況を「昔は,ちゃんとゲームを遊んでいないのに『ゲームが好き』と言う人がたくさんいたんです。でも今は違います。普通の人たちは『ゲームって難しいんでしょ』という認識を持っている。
■Nintendo DSの操作は,ものすごく「感覚的」。「ゲームがうまい人=コントローラの扱いやゲーム文法に習熟した人」という現在の常識は通用しない。なんと画面をこすって「削るだけ」でも,とても楽しいゲームになる。
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■画面写真は,いわゆる「メイド イン ワリオ」のDS版。「集めろ!」という命令に従って,ガマ口を手で触れて引きずり回し,散らばった硬貨を集めるというプチゲーム。指の動きについて,ずるずるとガマ口が動き回る感覚は,直感的で気持ちいい。
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Nintendo DSは,そういう普通の人たちでも感覚的,直感的に面白さが分かってもらえるものにしたいと思って,タッチスクリーンに注目しました。このタッチスクリーンなら,ゲームが上手な人でも,ゲームに慣れていない人でも,同じスタートラインに並んでゲームを遊んでもらえる可能性があるんです」と語る。
現在の標準的なゲームコントローラには10以上のボタンが付いている。この複雑化したコントローラを,ゲームに慣れていない人に「さぁ,動かせ」と言っても,それは無理というもの。
また,近年はRPGもシステムが複雑化が進んでいて,普通の人にとっての敷居が高くなってきている。こうした状況をかんがみて,ゲームファンでない人でも「ゲームが好き」と言ってもらえる。ゲームがそんな存在に戻れるようにとの願いが,Nintendo DSには込められているのだ。
■敢えてスペックを誇示しないNintendo DSだが,実は相当な「高性能」。だが,Nintendo DSにとって「高性能」は誇るべきポイントではない。「メトロイド」の新作では,極めて精緻なポリゴンが描写されている。
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■高性能なのは画像表示能力ばかりではない。16チャンネルのサウンドは,携帯ゲーム機とは思えないほどの響き。E3の会場では,その深みと広がりのある音を実際に耳にすることができた。
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以上のように,Nintendo DSは,第一の柱である据え置き型,第二の柱である携帯型とも根本的に異なる思想から生まれてきたものだ。「Nintendo DSは,据え置き型でも作れなかったし,携帯型ゲーム機でも作れなかった。過去のハードが高性能化したものではないんですね。これまでは作れなかったものがたくさん作れる可能性がある。だから“第三の柱”と呼んでいるんです」(宮本氏)。
ファミコンが生まれて20年。ゲーム業界は,既存のハードの枠組みで実現できるアイデアの頭打ちや,複雑化によって生じたゲーム離れに悩まされている。
この現状を打破する可能性のあるNintendo DSは,ライセンシーにも好評をもって迎えられているという。宮本氏も「各社さんとも,これを見て『あれをやりたい,これをやりたい』って,言ってくれるんですね」と,Nintendo DSが受け入れられている様子を語った。
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