「ひろがるスカイ!プリキュア」は、初の“男の子プリキュア”キュアウィングの誕生をどう描いたのか?:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
男の子プリキュアの狙いとは?
「ひろがるスカイ!プリキュア」の東映アニメーションプロデューサー・高橋麻樹氏は、日経MJ(日本経済新聞社)のインタビューで、男の子プリキュアの狙いとして「男女関係なく活躍するのが当たり前の時代に、誰でもプリキュアになれることを打ち出したかった」と語っています。
――男子や成人プリキュアの狙いは。
「シリーズ開始当時は『女の子なんだからおしとやかに』とよく言われるような時代でしたが、『女の子だって暴れたい!』をコンセプトに、自分の足でまっすぐ困難に立ち向かう姿を描いてきました。約20年たち、男女や年齢関係なく活躍するのが自然な時代に。20作目という節目でもあり(女の子だけでなく)誰でもプリキュアになれるということを打ち出したいと考えました」
(日本経済新聞社)日経MJ 2023年4月10日号
「女の子だからおしとやかに」といった「女の子のジェンダーロール」からの解放から始まったプリキュアが、20年の歳月を経て今度は「男の子だからプリキュアになれない」といった「男の子のジェンダーロール」の解放をも行ったのです。
プリキュアがずっと描いてきたのは「自らの足で立つこと」。その思いには性別も、年齢も関係ないとしたのです。さらに、「それは当たり前のことで特別言及することもない、ごく普通のこと」という意味をも含ませたのです。
もちろん、これまでのプリキュアは「女の子が変身する物語」であって、そこに男子が入るのは異質である、という意見もあるのかもしれません。
しかし、高橋プロデューサーは「主要視聴者は女児でぶれない」としつつも、「男女関係なく好きなものを見て欲しい」と語ってもいます。
――男の子がプリキュアごっこに加わりやすくなったという声も。
「主要視聴者は女児でぶれませんが『男の子だから見るのはおかしい』ということがなければうれしいです。男女関係なく好きなものを見て好きに遊んでほしい。主人公のキュアスカイはヒーローになりたい女の子ですが、プリキュアごっこでスカイをやりたい男の子がいてもいいですよね」
(日本経済新聞社)日経MJ 2023年4月10日号
この先、性別年齢関係なく「好きなものを好きといえる世の中」になっていく中で「男の子プリキュア」の登場は、ある意味必然だったのかもしれません。
もう少し「お兄さん」になる予定だった?
この「キュアウィング」、もともとは、もう少し年齢感が上の「お兄さんプリキュア」になる想定だったとのことです。
ただ「お兄さん」になりすぎると、子どもたちに「プリキュアになりたい」と思ってもらえなくなることも懸念され、「憧れ」と同時に「こんな風になりたい」と思ってもらえるプリキュアを目指して、キュアウィングの年齢を12歳の少年まで下げたことも明かされています。
高橋 当初は少年ではなく、年齢感はもう少し上になる想定でした。ただ、「プリキュア」を観てくれるお子様に受け入れてもらえるか。「カッコいい」という憧れと同時に「このプリキュアになりたい!」と思ってもらえるかが大きな課題でした。
「男の子でもプリキュアになれるよ」という少年らしいラインを維持しつつ、小さい女の子からも受け入れられる印象になるように、そこを第一に議論をし、声の印象も合わせて、他のプリキュアと差異の少ない12歳まで下げることになりました。
徳間書店『Animage(アニメージュ)』2023年5月号P82
キュアウィングの造形は確かに「男らしさ」というよりも「中性的」であり、まだ幼さの残る12歳という年齢設定、また「鳥の妖精が男の子になる」というワンクッションを挟む形となりました。
これらは全て、男の子プリキュアが「子どもたちに受け入れられるため」の施策で、初の「男の子のレギュラープリキュア」という新しい概念を創出するにあたっての、製作者側の子どもたちへの配慮だったようです。
「男の子プリキュア」の第一歩としてキュアウィングが出てきました。「お兄さんのプリキュア」「マッチョなプリキュア」などの出現はもう少し後のシリーズでのお楽しみなのかもしれませんね。
役割を性別、年齢で規定しない
また、本作ではこの先も初の「成人女性プリキュア」キュアバタフライの登場も予定されています。(誰が変身するのでしょうね……?)
しかし高橋プロデューサーは、「年上だからまとめ役」といった役割を固定せず、「ひろがるスカイ!プリキュア」で描かれる人間関係はあくまで「友達になれる」という対等な関係になる事を明言しています。
性差、年齢に関係なく「自分の意思で立ち向かっていく精神性こそがプリキュアである」としているのです。
――18歳の成人プリキュアの立ち位置は。
「男の子でも成人でも主人公の関係は『友達になれる』という対等な関係。チームでのそれぞれの役割は性格に応じており、年上だからまとめ役になるわけではありません。自分の意思で立ち向かっていくという精神性がプリキュアであり、年齢は関係ない。思いに応えていくことで広がっていく世界を描きたいと考えています」
(日本経済新聞社)日経MJ 2023年4月10日号
敵キャラ、カバトンが「脇役」という言葉を多用するのは、裏を返せば「この世界に脇役はいない」ということでもあります。
性差、年齢に関係なくその人の特徴を生かした役割を「ひろがるスカイ!プリキュア!」は描いていくのです。
この先も「男の子キュア」は出てくるのか?
2023年ついにレギュラーでの「男の子プリキュア」が登場しました。
さて、2024年以降のシリーズでも「男の子プリキュア」は登場するのでしょうか?
臆測ではありますが、この先は「男の子が出るシリーズもあるだろうし、出ないシリーズもある」という形になっていくものと思われます。
「男の子プリキュア」に深い意味を持たせすぎると、この先も男子を出さざるを得なくなるのですがそんな描写にはせず、男の子プリキュアがいるのは「ごく普通の、それが日常」として描かれました。
妖精プリキュアも、小学生プリキュアも、高校生プリキュアも「出るシリーズもあれば、出ないシリーズもある」というのと同様に、男の子プリキュアも「出るシリーズもあれば、出ないシリーズもある」というだけになるものと思われます。
あくまでそのシリーズにおいて子どもたちに伝えたいことがあれば、男の子プリキュアも登場するであろうし、きっとこの先も女の子だけのチームも出てくるでしょう。
プリキュアにおいて「男の子」を特別視する必要はなくなったのです。男の子が出るシリーズ、出ないシリーズ。どちらも普通のことなのです。
今や「男の子プリキュア」がいるのは当たり前の世界になったのですから。
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